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結局、標準文字商標ってなんなの?

知財系アドベントカレンダーというイベントに参加しています。アドベントカレンダーというのは、「12月1日から24日までクリスマスを待つまでに1日に1つ、穴が空けられるようになっているカレンダー」のことだそうです。

転じて、この期間に毎日1つずつ、リレー式にブログを書いていくWebイベントが、おそらく米国あたりで流行っていて、今年日本ではパテントサロンさん主催の「知財系アドベントカレンダー」及び「知財系もっとアドベントカレンダー」が立ち上がったので、僭越ながら「もっと」の方に参加させていただくことにしました。

しかし!とにかくネタが見つからない!しかもこれまでの9日間、先に書かれた先生方の記事が素晴らしすぎてもう・・・。もし来年も参加させいただくことがあれば、私みたいな者が最初に書いて、低いハードルから始めることが他の参加者の役に立つはずなので、早めに立候補することにします(今年これまでに書かれた先生方にはぜひ反省していただきたい笑)。


とまあ前置きが長くなりましたが、散々ネタに迷っていたところ、昨夜サウナで瞑想していてふと気付きました。そういや私、標準文字商標ってよくわかってないや(てへ)。私が弁理士になった頃には既に導入されていましたが、外国には未だにこんな制度がない国もありますし、「ロゴと標準文字、どっちで出願する?」という問いに対する一般的な回答はまだ見つけられていません。

ここ数年クライアントから、「他の弁理士に相談したら、標準文字の方が権利範囲が広いから、ロゴ1ではなく標準文字で出願することを勧められた」と言われることが増えました。おそらく一定の割合でこのような立場を支持する方がいるのだと思われ、発明協会で無料相談に応じていても、支援員(発明協会の職員)が同様の説明をすることがあり、「ちょっと待て待て!」となったこともあります。我々弁理士が商標の出願をするときには、常に権利行使の場面を念頭に置いて検討するわけですが、では標準文字商標の権利範囲ってどんなもんでしょう?

そもそも商標法における標準文字とは、「特許庁長官があらかじめ定めた一定の文字書体」2をいい、標準文字商標制度とは、「文字のみにより構成される商標のうち、特許庁長官があらかじめ定めた文字書体によるものをその商標の表示態様として公表し、登録する制度」3をいいます。特許庁長官があらかじめ定めた文字書体というのが何なのか知りませんが、公報を見てみると、一種の明朝体のようです。

ここで重要なのは、標準文字制度とは、特許庁長官が定めた書体による文字商標を(公開するのみならず)登録する制度だという点です。これは別のクライアントですが、「ロゴで文字のデザインを登録し、標準文字で文字の読み方を登録する」という指導を受けたと言う方がいました。しかし、標準文字制度では、特許庁長官が定めた書体の商標が登録されるわけですから、その書体を離れて、文字列(ネーミングとでもいうのでしょうか)が登録されるわけではありません。その意味で、標準文字でも、普通の文字商標でも、権利範囲は変わらないはずです4


標準文字制度って、特許庁・出願人双方の負担を減らす(例えばテキストの方が容量が小さい)ことを目的として導入された5わけですが、これは当然、権利範囲が変わらないことが前提になっているはずなんですよね。

では、標準文字商標と普通の文字商標の権利範囲が同じとして、ロゴ(飾り文字)と標準文字商標の権利範囲はどうなるでしょうか。標準文字は、「出願人が特別の態様について権利要求をしないとき」に選択される文字なわけですから、その文字が本来有する形状のみの外観的特徴を有することになります。一方でロゴは、これに加えて、文字に施された装飾も外観に特徴を与えることになります。その意味で、デザイン的要素が類否判断に与える影響が大きいので、むしろロゴのほうが権利範囲が広いことが多いのではないかという気もします。

例えば、(我ながら謎な例ですが、)「特許庁」と「特許序」は、標準文字だとおそらく非類似ですが、デザイン次第では、ロゴ同士が類似することはあるかもしれません。要するに、称呼も観念も非類似なとき、特に日本では文字同士の外観の類否はあまりみないので6、全体として非類似となりがちですが、ロゴであれば、外観の特徴が共通する場合、類似範囲に落ちてくることもあり得る点で、実はロゴのほうが権利範囲が広いんじゃね?という考え方もあるのではないでしょうか。

そもそも、商標制度の趣旨からは、実際に使用する商標を登録するのが本線であって、ロゴがあるのに標準文字で登録するというのは、例外的とまではいいませんが、テクニカルな観点によるところが大きいはずです。そう考えたときに、上記の検討が正しいかはともかく、使用するかわからない標準文字の登録をわざわざ選択7するほどに、本当に権利範囲が広いのかは、一度立ち止まって検討してもいいのではないでしょうか。


ところで、最近標準文字が流行ってる理由のひとつに、アマゾンブランド登録2.0が、当初標準文字商標を登録要件としていたことが挙げられます。数年前8にアマゾンブランド登録がアップデートされ、商標登録が、ブランド登録の要件とされることになったのですが、開始当初は、標準文字制度がある国では、(ロゴではなく)標準文字商標の登録が必要でした。

そのため、日本や米国でロゴの商標を登録していても、わざわざ標準文字を出願し直す必要があり、ちゃんと商標登録していた人こそ、時間とコストをかけないとブランド登録できないという事例が多発しました。こうした経験から、どうせ多くの商標はアマゾンでブランド登録するのだから、最初から標準文字で出願しておいたほうがいいという価値観が広まったように感じています。

しかし、その後アマゾンの運用が変わり、いまではロゴ商標の登録でもブランド登録できる9ので、やはり上述のとおり、ロゴがあるのに標準文字で出願するメリットは、あまりないように思います。


ということでまとめると、

1.ロゴがない場合
標準文字で出すしかない

2.ロゴがある場合
1)ロゴのデザイン要素が大きい場合:ロゴを出願
2)ロゴのデザイン要素が小さい場合:どちらでもOK

3.ロゴがたくさんある場合
最もメインで使用するロゴを出願する+標準文字も出願

4.ロゴがコロコロ変わる場合
とりあえず標準文字という戦略もある?

という感じでしょうか。まあ、こう言っては元も子もないのですが、使用する商標は(色違いを除いて)すべて出願すべきなのです。しかしこういう意見は弁理士のポジショントークと捉えられてしまうので、なかなか大きな声では言えません。本気で強い商標登録をアドバイスしたいだけなんですよ、いやまじで!

結論 標準文字商標、やっぱりよくわからん!


脚注

カナダ現行商標法の手続きはあと16日

ということで、ようやくカナダの改正商標法施行日が近づいてきました。

施行日は6月17日ですが、13〜16日は知財庁のシステムアップデートのため出願できないので、現行法の下に出願できるのはあと16日間ということになります。

カナダといえば世界でも珍しいというか、悪評高い商標制度をずっと続けてきたのですが、ようやく大幅改正に至りました。

今回の改正の目玉は、やはりニース分類の採用でしょう。これまでカナダは、ニース分類を採用せず、区分制度すらありませんでした。区分という概念がないため、どれだけ広範に商品・役務を指定しても同一料金だったのですが、今後は区分ごとに費用が発生します。

現行法下の印紙代
出願料 : CAD 250
登録料 : CAD 200
合計  : CAD 450(固定)

新法下の印紙代
出願料 : [1区分目]CAD 330
      [2区分目]CAD 100
登録料 : —
合計 : CAD 230 + 100N(N:区分数)

新法では、登録料が廃止されます(出願料に含まれます)。

このように、2区分以下なら新法の方が印紙代は安いのですが、注意すべきは代理人手数料も区分数に応じて増加することから、実際は複数区分の出願は新法ではすべて値上がりすることになります。

そこで現地代理人から複数区分の出願をするならいまがチャンスだよ!という営業メールがきたのでこの記事を書いているわけです笑

ただし、ニース分類を採用したことで、ついにカナダもマドプロに加盟することになりました。マドプロルートでカナダを指定するときの個別手数料は、1区分目がCHF251(約CAD335)、2区分目がCHF76(約CAD100)ですので、国内出願とほぼ同額です。

つまりまとめると、以下のようになります。

結論
区分数にかかわらず、新法化でマドプロ利用するのが安い(この世の真理)。
直接出願する場合は、複数区分の出願はいまのうちにしておくのが安い。1区分ならば新法の方が安い。

今回はいわゆる大改正で、他にも重要な変更がいくつかあるのですが、残り16日間のうちに出願するかどうかの判断に影響するのは、上記ニース分類採用による費用変更の点のみです。

その他の変更点で特に興味深いものは、例えば「出願ベース」の廃止があります。

現行カナダ法には「出願ベース」という概念があります。これは、出願が「使用ベース」、「使用予定ベース」、「本国出願・登録及び外国使用ベース」のいずれかに基づかないといけないというもので、使用開始日や外国出願の情報などを要求するというものです。

今回の改正で、出願ベースが廃止されます。これにより、出願時に必要な情報が減り、より出願しやすくなります。また同時に、使用宣言書の要求もなくなります。

また、新たに分割出願制度が導入されます。日本では馴染み深い制度ですが、カナダ法はユニークで、親出願・子出願のいずれもが登録された場合は、最終的にそれらが統合されます。これによって、更新手続きはひとつの登録についてのみ行えばいいことになります。

他にも、存続期間が15年間から10年間に短縮されたり、味やにおいなど非伝統的な商標も保護されるようになったりという改正もあります。

これまで使いづらい制度のせいでカナダ出願を後回しにしていた企業は、この機会に出願を検討してもいいかもしれません。

お読みくださりありがとうございました。ご意見・ご質問をお待ちしています