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模倣品の輸入規制のための提言 – 日本弁理士会からの提言の紹介

なんと3ヶ月もブログをサボっていたようです。大きな案件がいくつかあり、また関西と東京の往復が多くなかなか時間がとれませんでした。

さて、こちらをご覧ください。

模倣品の輸入規制のための提言

月間パテント2019年8月号 69頁

昨年度(平成30年度)の、日本弁理士会貿易円滑化対策委員会にて作成した提言です。一応私も著者名の端に名前が載っているので、ご紹介します。なお、あくまでも個人の立場で勝手に紹介するだけですので、内容に不正確な点などがあれば、責任はすべて私に帰属します。お問い合せは私に直接お寄せください。

また本稿では、法的な部分の説明はかなりざっくりなものとして、根拠条文の記載も省略します。法的な解説は次回の投稿で詳しくみていきます。

さて、「模倣品の個人輸入問題」について聞いたことがあるでしょうか。

「模倣品の輸入」ならわかりやすいですよね。偽物を輸入することは、商標権侵害となります。(※商標権以外の知財権でも事情は同じですが、ほとんどが商標権侵害物品なので、本稿ではとりあえず商標権について書きます。)

税関で差し止められた貨物の98%が商標権侵害
出典はこちら

偽物を輸入しようとする行為が税関で見つかると、輸入が差し止められ、没収されてしまいます。

しかし、個人的に使用する目的で、模倣品を輸入する行為は、商標権侵害とはならないので、税関で没収されず、自由に輸入できてしまいます。

なぜかというと、商標権侵害となるには、「業として」輸入することが条件となっているからです。「業として」とは、反復継続的に行われることを意味するので、個人的に使用するということは、「業として」に該当しないのですね。

さて、いま、有名ブランドの偽物が1点、輸入されようとしています。税関が発見し、差し止めようとしてくれています。しかし税関は、いきなり没収することはできません。

税関で輸入を差し止め(没収)するためには、認定手続という手続きを経る必要があります。これは、その商品が本当に偽物なのかを、税関が確認する手続きです。

輸入者と商標権者の両方に「認定手続開始通知書」が送られ、認定手続が開始されます。それに対して、双方とも、意見書を出すことができます。税関は、両方の意見を聴いて、その商品が本物か偽物かを判断します。

ところがここで、輸入者側から、「これは個人輸入です。」という内容の意見書が出されてしまうと、その商品が偽物であったとしても、税関は輸入許可せざるを得ません。個人輸入ならば、「業として」の輸入ではないので、商標権侵害とならないからです。

こうして、せっかく税関が偽物を見つけても、そして権利者が「これは偽物です」という意見書を出しても、輸入者から「個人輸入です」と宣言する意見書が出されてしまったら、偽物が堂々と輸入されてしまうのです。

これを悪用して、偽物をわざわざEMSなどの小口で輸入するケースが激増しています。

税関で差し止められた物品の92%以上が小口郵便
出典はこちら

こうして、税関が努力をして、大量の模倣品を発見してくれているにもかかわらず、「個人輸入です」という紙切れが出されてしまうだけで、すべて輸入許可しなければならない状況が続いています。税関の作業は税金で行われています。どうせ最終的にリリースしなければならない偽物を、わざわざ見つけて、認定手続を行う必要はあるのでしょうか?

そもそも、日本という国において、堂々と偽物の輸入を認める合理的理由はあるのでしょうか?実際、こうして輸入された偽物の多くは、日本のインターネットで転売されています。

いまの時代、インターネットで簡単に偽物が購入できます。見慣れたECサイトを思い出してみてください。明らかに偽物とわかる商品が販売されていると思います。

その商品が、日本の倉庫に入っていたら、違法です。しかし海外の倉庫に入っていたら、日本の法律では違法とはいえない。それを個人輸入すれば、堂々と輸入できてしまう。中国から、EMSで2日もあれば日本に届きます。倉庫の場所が日本か中国かで違法だったりなかったりする。これはおかしくないでしょうか?

このような状況に鑑みて、日本弁理士会では、以下の提言を行いました。

提言は、2つの内容からなります。

第1段階
模倣品の輸入規制の強化のために,喫緊の対応策として,「輸入……する行為」(商標法2 条3項2号)の主体を外国の販売業者等と認定判断する余地を肯定する解釈論を採用することを検討すべきである。

第2段階
また,かかる解釈論が採用・適用し難い場合を念頭に,同検討と並行して,さらに抜本的な解決のための立法論として,模倣品(1)を業としてではなく輸入する行為(但し,輸入者が譲受け時に模倣品であることを知らず,かつ,知らないことにつき過失がない場合を除く。)を商標権侵害と見做す規定を商標法37条に新規に創設する(但し,商標法78条の2所定の罰則からは除外する。)ことを検討すべきである。

前者は、少しわかりづらいかもしれません。商標法には、「輸入」という用語が出てきますが、定義は記載されていません。つまり、状況に応じて、解釈することができるわけです。

いまは、通関=輸入と解し運用されています(通関説)。これは、関税徴収時の考え方に倣ったものと考えられます。つまり、貨物が本邦(日本)に物理的に届いても、関税が納付され、輸入許可されるまでは、外国貨物のままです。輸入許可された段階で初めて、内国貨物になります。この、外国貨物から内国貨物への切り替えの時点(すなわち通関時)を、輸入と解釈しているのです。

一方で、陸揚説(荷揚説)という考え方もあります。これは、文字どおり、貨物が本邦に陸揚げ・荷揚げされた時点をもって、輸入されたと解釈する考え方です。例えば、覚醒剤の密輸に対しては、この考え方が適用されており、港に陸揚げされた段階で(税関を通る前でも)、覚醒剤を輸入したとして処罰されます。言い換えると、陸揚説とは、貨物を本邦に持ち込むときに、その貨物を実効支配し、危険を負担している人が輸入者となるという考え方だといえます。

さらに、上述のとおり、ほとんどの個人輸入は、国際郵便で送られてきます。条約により、国際郵便は、購入者が引き取った時点をもって輸入したこととされます。つまり、購入者が貨物を受け取るその瞬間までは、海外の発送業者がその貨物を実効支配しており、危険を負担しているといえるのです。

そうすると、陸揚説を採用した上で、国際郵便については、購入者が商品を引き取り、貨物の実効支配と危険負担が移転する時点を「輸入」と解釈する余地がありそうです。通関時点ではまだ外国の発送業者が貨物を実効支配及び危険負担しているのですから、彼らが輸入者となるわけです。外国の発送業者は、一般に、業としてその貨物を発送している=日本に輸入しているわけですから、「個人輸入である」という言い訳は通じなくなります。

このような解釈を採用することで、個人輸入を力づくで止めてしまおうというのが、第1段階の内容です。

上が通関説(現行解釈)、下が陸揚説(弁理士会が提案する解釈)

ただし、これにもいろいろと抜け穴があるかもしれません。発送業者側も、個人的に発送しているように装うなどの対策をしてくることが予想されます。そこで、将来的には、商標法の間接侵害の規定を改正して、模倣品であれば個人輸入であっても商標権侵害とする規定を入れてしまおうというのが、第2段階です。

ただこれは、産業財産権法が「業として」の要件を入れている意義にある意味反するものなので、いくつかの考慮をしています。例えば、対象を、「模倣品」に限定してます。ここで「模倣品」とは、デッドコピーのようなものに限定したものを想定しています(オリジナルを知って真似した点、及び「類似」まで広くない点にご注意ください)。また、刑事罰の対象から除外しています。

こうすることで、いま問題になっている偽物の個人輸入の大半は止められるようになるだろうと考えています。まだまだ課題はありますが、関係者の皆さんが努力を続けていらっしゃるので、実現できると信じたいと思います。

注:「個人輸入です」と嘘の意見書を出して偽物を輸入して、転売する行為は、違法ですし、犯罪です。絶対にやめましょう。